Mar 11, 2025

 








雪が絶え間なく降り続いていて

まだ実家暮らしだったわたしはひとり

危険なことはわかっていて

火を絶やせずにいた 薪ストーブの前で

毛布にくるまり

静寂と薄闇のなかで

まぶしい無声映画のスクリーンみたいに光る窓を

ぼんやりと見上げていた


家族が帰って来る車の音を待ちながら

それが永遠に聴こえなければいいのに とも

本気で思っていた

あの日の わたしがいた


前年の最後に 

初めてたくさん語らったひとは 

海のそばに住んでいると話していた

彼女の命は あの日 海のむこうへいった

 私も隅に小さな作品を並べた 父の展覧会場だった

水産会社の建物が なくなって


春の湿ったつめたさに ひたしてある

あの時の これっぽちと

それからの いくつもの 喪失の記憶


でも  何も知らない 

本当のことは

誰かの本当も

わたしが失くしてきたものが 何なのかも


自分のことすらようやく

知ろうとしている今だって

もう遅いのかもしれない

それでも あきらめの悪い質のおかげで

放りだすこともできずにいるわたしが

今日も ここにいて

 また

わすれていく


とまどっていい

とどまることは なくていい

なかなか減らない絵の具で 

きれいごとをかさねては ぬぐった物語を 


選び続けられるように


明日のわたしへ

mar,2025




dec,2022