雪が絶え間なく降り続いていて
まだ実家暮らしだったわたしはひとり
危険なことはわかっていて
火を絶やせずにいた 薪ストーブの前で
毛布にくるまり
静寂と薄闇のなかで
まぶしい無声映画のスクリーンみたいに光る窓を
ぼんやりと見上げていた
家族が帰って来る車の音を待ちながら
それが永遠に聴こえなければいいのに とも
本気で思っていた
あの日の わたしがいた
前年の最後に
初めてたくさん語らったひとは
海のそばに住んでいると話していた
彼女の命は あの日 海のむこうへいった
私も隅に小さな作品を並べた 父の展覧会場だった
水産会社の建物が なくなって
春の湿ったつめたさに ひたしてある
あの時の これっぽちと
それからの いくつもの 喪失の記憶
でも 何も知らない
本当のことは
誰かの本当も
わたしが失くしてきたものが 何なのかも
自分のことすらようやく
知ろうとしている今だって
もう遅いのかもしれない
それでも あきらめの悪い質のおかげで
放りだすこともできずにいるわたしが
今日も ここにいて
また
わすれていく
とまどっていい
とどまることは なくていい
なかなか減らない絵の具で
きれいごとをかさねては ぬぐった物語を
選び続けられるように
明日のわたしへ
mar,2025
dec,2022