初秋の涼しい風が、空の高みから吹き降りてきた。
海の匂いがする、と思った、その瞬間、耳の奥から潮騒が響いた。
ザー。シュワシュワ。フー。
海鳴り、ならぬ耳鳴り。
三半規管の巻貝が、月の招きを受けていたのだった。
「月と潮騒」 梨木香歩